ダイナミクスって色々あるよね?を理解してアレンジを爆発させろ

ダイナミクスって色々あるよね?を理解してアレンジを爆発させろ

Studio MASS パートナー Soushi Mizunoです。

今回は個人的にバンドや楽曲提供などの経験が長い自分がエンジニア業界に入って思った事、
“エンジニアの知識を曲作りに持ち込んだらクオリティめちゃめちゃ上がらない?”
というお話をしていきます。

 

商業音楽の現場であればエンジニアリングを知っているアレンジャーがいて、
ディレクターがいて、エンジニアが居て、何が起こっているのか正確に把握できるスピーカーがある中でレコーディングを行うので完成まで見通して録れるのは当たり前なのですが、
一人作曲家/エンジニアはそうもいきません。
なんとかみんなで情報出し合って生きていきましょ!

 

自分で作曲もミキシングも行う方が十中八九ぶつかるであろう壁、
音の分離感の向上、迫力の出し方など。
それらについては周波数的な問題ももちろんありますが、

既に各方面で語り尽くされているので、
今回はダイナミクスに焦点を絞ります。
そしてエンジニアリングのお話ではなく、作曲のお話です。
周波数問題もダイナミクスも作曲段階で考えて音を重ねて行くのが一番良いと思うんです。

これもエンジニアを始めて痛感した事ですが、
元音が良くなければ完成品は最高なものにならないんですよ!
プラグインで音をいじりすぎるのはもうやめましょう!

自作曲を自分でミックスするのは大変だけどエンジニアに投げれば何とかなるやろと思って投げて納得いかない結果になった事があったりする方の参考になれば。
(バンドマンやその他楽器を演奏する方でもきっとお役に立つ考え方だと思いますよ!)
その概念を知るだけでも何かの足しになるかもしれません。
上手く利用すればミックスが必要無いと思えるほどになるかもしれませんよ!

 

もくじ

  1. ボブカッツ氏のマイクロダイナミクスエンハンスメントについて考えた時、ダイナミクスってなに?と再考した話
  2. ダイナミクスの種類を3つに分けて考えてみる
  3. ダイナミクスにもマスキングが存在する?
  4. 作曲に応用したらどうなる?
  5. まとめ

ボブカッツ氏のマイクロダイナミクスエンハンスメントについて考えた


マスタリング界の巨匠の一人にボブカッツ氏という方がいます。
彼の書いた本(mastering audio)は各所でマスタリングのバイブルと呼ばれ、
現在Studio MASSメンバーのShuyamさん(@_shuyam)がTwitterにて翻訳に取り掛かっているところでもありますが、
そんな彼が特許を取得しており公には絶対に明かさないテクニック、
それがマイクロダイナミクスエンハンスメントです。

これについて考えた時、
まず始めに「マイクロダイナミクスってどれ?」
と思ったんです。
そして同時に、
これまで無意識に口にしていたダイナミクスという言葉に、どれ?と思える程種類があるという事を初めて意識しました。

ここで指すマイクロダイナミクスとは、30msec程にも満たないトランジェントの事なのか、もう少し長い時間軸での音の出始めと引き際との音量差の事なのか。
そして誰かが楽曲のダイナミクスという際は殆どの場合サビとAメロなどの音量感の差を表しますが、これはマクロダイナミクスと呼べるのではないか。

結果あれこれやってみて手応えを感じる手法は見つかったものの、
マイクロダイナミクスエンハンスメントの真相に至る事はありませんでした。
しかし大きな副産物を発見した、と思いました。

それが、
ダイナミクスの種類を3つに分け、それぞれの役割を考えて作曲に活かす方法

です。 

ダイナミクスの種類を3つに分けて考えてみる

まずはダイナミクスの分類をします。
人によって言葉に対する意味はまちまちなので、
あくまで個人的な分類と思っていただければ幸いです。
ここではマイクロダイナミクスエンハンスメントとも別枠で考えます。

1 トランジェント
0〜30msecあたりに感じる音の粒立ち、立ち上がり。
周波数で言うと8kHz〜20kHzあたりにより多く感じる。
プチプチノイズはトランジェントの塊。
そういう音は放っておいても勝手に前に出る。

2マイクロダイナミクス
50msec〜500msecくらいに感じる音の減衰の有無、大小、長さ。

マイクロダイナミクスが多いと(大小差が激しいと)音が近く聞こえる。
マイクロダイナミクスがゼロに近づくと(持続音に近づくと)音は遠くなってゆき、ゼロ(=持続音)だと距離感は分からなくなる。空間を満たしている空気みたいな。

例えばバスドラムで次のアタックが来るまでに減衰が殆ど無い場合(そんなのまず無いけど)2打目はアタックが聞き取りづらくなるor聞こえなくなる。
それらの聴感上の変化がドラムだけではなく全ての音の相互関係で起こる。

3マクロダイナミクス
500msec以上のスパンで起きる音量の変化。(数字はあくまで感覚です)
数小節のループのどこかや楽曲展開にこれがあるとダイナミックだね!となる気がする。
フェーダーオートメーションで操るのは半分以上これ。
ヒップホップビートで1拍音が全部なくなってワーオ!となるのもマクロダイナミクスの変化に脳がオっ?となるためと言えるかも。


以上がざっくりとした分類です。

これらの分類をするだけでも今の自分の楽曲に足りないものは何なのかが考えやすくなるのではないでしょうか。

前に定位すべき音が引っ込んでしまっている場合はコンプなどでトランジェントを殺してしまっていないか確認するorトランジェントのある音色に変える、
1ループにダイナミクスを感じなければ問題の音の長さ(音価)を変える、
通して聞いた時にセクションが変わる事によるマクロのダイナミクスを感じなければMIDIベロシティや展開毎の楽器数の増減を見直す、など。


生ドラムの場合は特に、音源によっては余計なサステインが多く含まれている事もあります。
もしもドラムを前に押し出したい場合、コンプレッサーをかける前に各サンプルの減衰を調整する事をお勧めします。
コンプレッサーを使用する際も何の為に圧縮するのか、
トランジェントを潰すのか残すのか、
良い意味で音を鈍らせるのか、
音の長さの感じ方にどういう変化を与えるのか など、
目的を持って使用できると最高ですね!


3.ダイナミクスにもマスキングが存在する?

例えばバンド曲で全く同じタイミングにドラムのトランジェントとギターコードのピッキング音が重なっていた場合、
基本的に音量の小さい方の音の印象が薄くなり大きな方の音と混じり合って意図しない音像が現れる事があります。

クラブミュージックでベースがなっている時にバスドラムを鳴らした場合、
トランジェントだけが聞こえやすく、ローが無くなって聞こえる事があります。


これらは周波数的なマスキングの要素もありますが、
ダイナミクス面でのマスキングと呼べる要素も同時に存在していると考えます。
ミックス段階になって周波数面だけを見て処理してゆくとどうしてもスカスカな音になってしまうのではないでしょうか。

プラグインコンプでのサイドチェイン処理でも対処は可能です。
しかし、アレンジ段階から考えて音の置き方を変えてゆく方が圧倒的に自然で効果的に仕上がります。

ロックでよくあるサビ頭でギターが少しだけ先走るアレンジや、
EDMなどでよくあるキックのタイミングで音量が下がるサイドチェインコンプを利用した(ダッキング)ベースはそのような観点から見ても合理的なアレンジで、
そういったアレンジを始めた先人達はきっとダイナミクスのマスキングに気づいていたんだろうなぁと思います。

 

作曲に応用するとどうなる?

こちらのサンプルをお聞きください。
これは自分が初めて聞いた時にあまりの良さにぶったまげた曲です。
この人、絶対最終的な音の出方が見えた状態で曲作ってるだろ…と驚いた記憶があります。

この方の曲の特徴は他の曲も含めてほとんどの曲で、

  • スネアのタイミングでベースを切る
  • 要所要所である楽器単体のフレーズのみを聞かせるセクションがある
  • 前に置く音(主にキックとスネア)とそれ以外の音のハッキリしたリバーブ有り/無し
  • 次の1音を際立たせたいタイミングで逆再生系の音を使う

などの要素があり、それらがこれでもかというくらいダイナミクスを演出しています。
また分かりにくい要素として、ある曲では常にうっすらとホワイトノイズなどの環境音が流れておりキックのタイミングでダッキングしていたりと、
ダイナミクスに対する執着と呼べる程のこだわりが見て取れます。
結果として各音色が無理せず存在でき、
音質面でも無理に削っている部分がほとんど無いように感じます。

少し脱線しますがその拘りはマスタリングにも及んでいて、
Supotifyなどのラウドネスノーマライズが行われている再生環境で聞いた際の他アーティストとのマイクロダイナミクスの差は歴然です。
ただでさえ楽曲単位でもとてつもないダイナミクスを持っているのに更にマスタリングでもリミッターで無駄にピークを削る事を避けた結果なのでしょう。


細かい説明は省きますが、
デジタル上での音楽制作では0dbの壁などの関係で極論音が1つのみの時にその音が1番大きく近くダイナミックに聞こえ、
音数が多くなればなるほど1つ1つの音は小さく遠くなり、ダイナミクスはゼロに近づいていきます。
加えて音そのものにも重なれば重なるほどお互いを潰し合う性質があるので、上に挙げたような手法によって各音色を際立たせたり音圧感の高い部分と低い部分の差を感じやすくする事が可能です。

これらを踏まえ、もう一度自分の作った曲を聞き直してみましょう。
音の切り際や減衰の長さに意図はありますか?
聞かせたい音を邪魔している音は省けませんか?
また逆に、背景になるはずの音が立ってしまっていていませんか?
環境音やロングリバーブに思い切りサイドチェインコンプをかけてみたらダイナミックで新鮮なアレンジになったりしませんか?

その他にもダイナミクスを主眼に置いて聞き直した時に見えて来るものがあるかもしれません。
是非お試しください。

 

まとめ

若干個人的な音楽の趣向が出てしまったのかなとは思いますが、
作曲段階からダイナミクスを意識する事で楽曲によりインパクトを与えられ、
ついでに音質も向上させられるよ、というお話でした。

あぁだこうだ書きましたが、音楽において一番大事なのは“その楽曲であなたが何を伝えたいのか”です。
自分の楽曲にはダイナミクスなんていらねぇ!でも構わないんです。
伝えたい事が音数の多さによるカオス感、飽和感である場合など、そのようなパターンは考えられます。
しかし伝えたい事がシンプルであるのに意図せずメッセージが滲むのは避けたいものです。
もしも自分の聞かせたいものが聞かせたいように鳴ってくれない時、
この記事が伝えたい事を明確に伝える手助けになれば幸いです。

他にも何か音の事で悩みがあれば、
いつでもお気軽にご相談くださいね!

ここまで読んでくださってありがとうございました。