マスタリングの本当の意味について考えてみました。

「マスタリングってどんなことをするの?」

 

そう聞かれたときに、いろいろなことが頭に浮かびます。

もし、教科書的な答え方をすれば、

マスタリングはミックスされた音源(2mix)を、アルバムを通じて違和感がないように、曲間の調整や、音量の調整、プレス工場が直接読み取れる形への変換をすること ということになります。

これは正確には、プレマスタリングというもので、
広義のマスタリングは、CDのスタンパー(プレスの金型)を作成するところまでは入ります。

スタンパーを作れるのはプレス工場だけでして、ほとんどのマスタリングスタジオは工場は持っていません。

なので、今はプレマスタリング=マスタリングと言ってしまってもいいと思います。

 

でも、どうにも腑に落ちないのです。

それはあくまでも、今、CDが主流なのでそういう話になっているというだけで、どうも本質をついていないように感じます。

 

そもそも、マスタリングが今の姿になったのは、
CDの登場がきっかけです。

CDが登場するまでは、カセットテープやレコードなどのアナログメディアが主流でした。

アナログメディアは、音は素晴らしいのですが、繰り返し聴くと劣化をしてしまいます。

そこで、何回でも聴けて、音がクリアなまま保存できるCDが登場すると、

CDはすぐに主流のメディアとなりました。

ところが、CDはデジタルメディアです。

当時のエンジニアたちは、アナログからアナログについてのノウハウはもっていましたが、アナログからデジタルへのノウハウはありませんでした。
デジタルとアナログは全く別世界のモノだったのです。
そこで、オープンリールを扱う職人や、録音機器の開発する職人たちがあつめられ、

どうすればCDに、きれいな音で収音できるか。

どうすれば、違和感なく作品を聞いてもらえるか。

みんなにもっと聞いてもらうにはどうすればいいか。

それに、みんなが、どんな音が聞きたいのだろうか。

たくさんの工夫を積み重ねて、こうすればいいものになるといったノウハウを蓄積していきました。

それが、今のマスタリングの手法とつながっています。

 

そして今、長かったCDの時代が終わり、配信に移ろうとしています。

はたして本当に移るのか、現段階では、僕はわかりません。

 

ただ、一つ言えるのは、

マスタリングは時代とともに、
変わっていくものだということです。

例えば、同じCDという媒体でも、

1980年のものと2000年のものでは、音量も音質もまるで違います。

 

言い換えれば、マスタリングとは

作品を「今」という時代に落とし込む

そんな作業といえるかもしれません。

 

良いマスタリングエンジニアは常に、

「今」求められているサウンドが何なのか。

「今」、この作品の感動を届けるためには何をするべきか。

それを、追い求めています。

 

だから、

「マスタリングってどんなことをするんですか?」

と聞かれたときには、

「作品の良さを、「今」あう形に磨くこと」

と、答えています。